山から海へ — 流れの中の静けさ
紀伊半島の山道を歩いていると、いつも同じことを考える。この小さな沢の水は、いつか海に辿り着くのだろうか。石の上を流れ、深い谷を下り、田畑を潤し、町を通り抜けて、やがて紀伊水道の広い海原へと注がれていく—水の旅は、人の一生に似ていると思う。
今日は標高800メートルほどの山道から、一本の沢に沿って歩いた。最初は細い糸のようだった水流は、支流が合わさるたびに太くなり、声も高くなっていく。苔むした岩の上を白い泡を立てながら流れる水は、光を受けて宝石のように輝く。足元の湿った土からは、山の息吹のような香りが立ち上る。
歩きながら気づいたのは、「急がない」ということの豊かさだ。水は遠回りをしても、最終的には必ず海に届く。私たちも同じではないか。目的地ではなく、その途中の流れの中にこそ、生きることの本質があるのかもしれない。日向灘の海岸に辿り着いた時、夕日が水面を燃やし、山から続く水の旅がここで完成した瞬間を目撃した気がした。
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